◎わたしの所有していたコンサートグランドP。
【映画・あらすじ】
ピアノの天才たちが集う芳ヶ江国際ピアノコンクールの予選会に参加する若き4人のピアニストたち。何年かに一度、ごく稀に天才が引き寄せられて一同に会する機会があるのだと。実は、それは稀なことではなく、音楽の神と称する大人物が、独自の視点で見つけた天才に推薦状を着けてコンクールに送り込んでいる。謎の推薦状。この書面を生かすも殺すも審査員の手にかかっている。
審査員の音楽性のみならず、深い物事に対する洞察力がものをいう。果たして推薦状をもって参加した少年は優勝できるのか?
ここで、4人の天才の紹介をする。
◎1人目・母の死をきっかけにピアノが弾けなくなったかつての天才少女・栄伝亜夜(えいでん あや)は、7年の時を経て再びコンクールへの出場を決意する。亜夜の繰り出す無数の音のダンシングはプロコフィエフ・コンチェルト第3番。圧巻の演奏を際立たせるドレスと漆黒の髪が魅力的だ。
◎2人目・音大出身だが現在は楽器店で働くコンクール年齢制限ギリギリの高島明石(たかしま あかし)は、家族の応援を背に年齢制限で今回、最後の挑戦に臨む。宮沢賢治「春と修羅」のカデンツァ(即興)では、妻と一人息子との暮らしを彷彿させる純朴な美しい演奏で聴衆を魅了した。
◎3人目・名門ジュリアード音楽院在籍中で完璧な演奏技術と感性を併せ持つマサル・C・レビ=アナトールは、優勝候補として注目されている。彼のプロコフィエフ・コンチェルト第2番は、指揮者はじめオーケストラ、聴衆まですべて引き込む圧巻の演奏。この演奏を聴いた亜夜は「世界に愛され、喜ばれる音」だと絶賛した。
◎4人目・パリで行われたオーディションに突如現れた謎の少年・風間塵(かざま じん〉は、先ごろ亡くなった世界最高峰のピアニストからの「推薦状」を持っており、そのすさまじい演奏で見る者すべてを圧倒していく。この天才はパリで遊牧民をする父親の友人(ホフマン先生・推薦状の主)から、木製の音のでないキーボードをもらい、ずっと音無しで弾き続けてきた大天才。
熱い戦いの中で互いに刺激しあい、それぞれ葛藤しながらも成長していく4人だったが……。
直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の同名小説を、松岡茉優、松坂桃李、「レディ・プレイヤー1」の森崎ウィンら共演で実写映画化。
【原作を読んで】
文学は芸術と言えるのだろうか?これは非常に悩ましいところだ。美術や音楽との違いは歴然としている。文学はあくまでもその文章の持つ内容がロジック(論理的)に書かれているはずで、一方美術や音楽は右脳の持つ特徴を情感に訴える。
しかし、今ではロジック(論理的)な手法をとる芸術もあるだろうし、情緒たっぷりの文学や音楽的要素を持った打情詩のようなもあり、それはひとくくりにすると、まさに文学なのだ。
共通点はいずれも人間的であるということ。音楽を文章で描写するとどうなるのだろう?それが、この本だ。文字という媒体を使いながら、いつのまにか聴覚による読書になってしまう不思議。
原曲を知らない場合は、You Tubeで曲を流しながら読むのが一時流行ったっけな。クラシックを敬遠してきた人は、今からでも遅くないから、どうぞ、圧倒的な音の洪水(シャワー)を浴びにきて!(笑)
私的エッセイ「ピアノとわたし」
ピアノに出会ったのは4歳の時。わたしが幼稚園に入る前に母親が運転免許を取ることになり、わたしと2歳の弟を自動車学校の保育所に預けた。その保育所に鎮座していたピアノ。
わたしは毎日、素敵な音の出るその箱に魅了され続けた。ずっと母親の教習中、鍵盤を叩き続けていたのだそうだ。そして、我が家にピアノが来たのが7歳の時。自分のピアノを持った喜びで、何にも怖いものが無くなった。誰も遊ぶ人がいない時でも、ピアノがあるから大丈夫。いくらでも好き放題に弾けるんだもん。そうやってずっとレッスンを続け、音大受験し、音大でさらに厳しい訓練を続けて、「ああ~こうやってコンサートピアニストになるのかな?」とか漠然と思っていた。
その後、紆余曲折があり、わたしは中堅演奏家として舞台に立つ事もあれば、本業は子どもから大人までを広く指導するピアノ講師となっていた。コンサートプロでなくても充分に素晴らしい音楽を職業にできた喜びでいっぱいだった。しかし、40代半ばの大病でわたしの演奏家生活も幕を閉じたのだった。
演奏できなくなった「自分」が可愛そうだとか、苦しいとか、ほぼそういった「負」の感情は湧かず、生きられる喜びのほうが大きく勝っていたことに、限りなく救われたのだった。今回、この作品を2回読んでから、映画を観た。読めば、読むほど、文章化された音のシャワーが降り注いだのには驚きだった。早く、映像で4人の天才の演奏が聴きたくて仕方がなかった。
「弾く」ことを捨てて得たものは最高の「聴く」ことだった。これだけでたぶん一生涯、生きていける。精神的に奥深い満足の得られた喜びは計り知れない。
この作品には3本のある作品のオマージュ(尊敬の念)が使われているのを発見した。どこのレビューにも書かれてはいないのでここに記しておこう。
「いつもポケットにショパン」くらもちふさこ・著「ピアノの森」一色まこと・著「春と修羅」宮沢賢治・著
なるほど~、こうやって小説のストーリー建てにオマージュを使うと、映画にするにも映像が浮かびやすい。なんだか発見して得しちゃったなあ(笑)
これほどまでにピアノを愛していたことを再考できた幸せな読書と映画鑑賞。やっぱり秋は芸術&読書よ。